九代目のひとりごと

23.「SHOE SHINE」の宮崎さんに感じたプロ魂~靴磨きは人間磨き~

やはりジャンルを問わずどこの世界にも「達人」はいる。腕が良く、接客、サービス、全てにおいてお客を満足させる人は見ていて必ず唸りたくような魅力を備えている。

私は千代田区紀尾井町にあるホテルニューオータニ内の靴磨き専門店に良く通っている。都内にはいくつもお気に入りのホテルがありそれぞれの目的で良く使わせてもらうが靴磨きはここ以外に行くことがない。

お店の名前は「SHOE SHINE」。宮崎さんという方がここで長く靴を、そして人々の人生を磨いている。このお店は著名人や政財界の方々も利用しているはずだが私のような小さい人間でも差別なく大切に接してくれる。どんなに忙しくても笑顔と楽しい話を忘れない。

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あくまで推測だが、宮崎さんは座った瞬間に靴よりも先にお客の顔色を見てわずか10分間の「お付き合い」を考えているのかもしれない。私 が明るい気分の時は「会社も忙しそうですね。ますます調子が良くなってきているんじゃないですか」と会社の様子を聞きながら明るい声で勇気づけてくれる し、少し気分が優れない時は、いつもより口数を少なくして「元気ですか?靴もだいぶ元気がないようですね。でも頑張ってくださいよ!若いうちは何でもでき ますよ」と優しく語りながら靴を懸命に磨いてくれる。靴に自分の心も映っているのかと思ってしまう。


はじめて靴磨きをしていただいた時に、自分が商談で外に出る機会が多い事を話したのだが靴をきれいにしておくことは大切ですよ。交渉する時、デキル人間はまずは足先から見ていますからね。」と若干汚れていた靴を履いていた私に助言をしてくれた。「昔、銀行マンは上司から靴が汚れている奴に金を貸すなと教えられていたそうですよ。だから名刺交換の時に深々下げる人は腰が低いというより相手の靴を見ているのかもしれませんね(笑)」とも話してくれた。私はそれから靴を綺麗にする気持ちを持とうと決心した。

布を何枚も使い分けて拭き、順序良くクリームを使いわけ丁寧に磨いてくれる。またクリームの使い方を見ても決して大量に塗らずほんの少しを布につけて磨く。動物を優しく触るような手の使い方で靴をふいてくれる。その小さな静かな動きを続けて、わずか10分近くで信じられないぐらい靴がきれいになっていく。

コーヒーを上手に作る喫茶店のオーナーのように丹念に靴を作り上げる姿。そして座らせている人を飽きさせずにお客の性格に合わせながら言葉を選んでの接客。

私が磨いてもらっているとあるお客が夕方に取りに来ますと言って大量の靴を入れた紙袋を置いていった。やはり常連が多い証拠だろう。私は改めて「プロフェッショナル魂」に感激した。
おたふくわたも宮崎さんから学ぶ点があまりにも多すぎる。

九代目 原田浩太郎

※このコラムは2005年7月に執筆されたものです

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