九代目言聞録

20.先生、綿は土に帰るんです ~東京農業大学・玉井先生との協力でふとん環境問題に一石を投じたい~

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地球温暖化は本当に深刻な問題である

深刻になってきたふとんのリサイクル問題
ふとん業界は本当に深刻だ。専門店は毎年数多く店じまいをし、綿だけでなく羽毛や羊毛の輸入量や生産量も減少している。しかしだからといって各メーカーが何も対策をしていないわけではない。同業他社の経営者や従業員と会えば彼らも相当の危機感を持っているし、差別化を図った商品開発も行いそれぞれ切磋琢磨に頑張っている。僕らもその姿に影響されて日々励んでいる。
だが「売上」ばかりを気にしていてはお客様から信頼されないばかりか企業成長力が後退していく。なぜなら・・・現在、僕たち地球の最重要テーマである「環境問題」を各企業が解決出来る術を考え実行しなければもはや未来に生き残れることが厳しくなるからだ。
僕たちが使う「ふとん」は人が社会に出てから老人になるまで3回ぐらいしか買い換えないのではないだろうか。つまり10数年に一回の割合。綿ふとんは数年に一回打ち直しを薦めているがこの通りに出す人はなかなかいない。やはり衣類と違い購買頻度、購入必要度が全然低い。それにお客様の声で知ったのだがふとんが欲しくても自宅の押入れに数多く残っているのを考えたら新しく買うことに躊躇すると言う人が多いのだ。自宅の押入れのふとんとはほとんどがかつて来客用として使われていたもの。昔は親戚などが自宅に遊びに来てそのまま泊まるという習慣があったが最近は日帰りや近くのホテルを利用する人が多いからほとんど使わなくなった。
だからただでさえ購買頻度が低い「ふとん」はこのような原因でさらに頻度が減っているのも一因だろう。その押入れにあるふとんだって決して新しいものではないが、あまり使っていないので捨てることが出来ないのだ。実はふとん業界が今悩んでいるのがこの「ふとん」の処分なのだ。環境にプラス面の処分方法が見出されれば押入れのふとんもどんどんなくなっていくのにそれが出来ないでいるのだ。

当社のHPには幾度も書いているが不名誉なことだが東京都の(全国的な平均で見ても)粗大ごみの不動の1位はふとんなのだ。それは国も市町村もふとんの処理方法から消極的な動きを続けているのも原因だ。なぜならあまりにもふとんの素材が多種にわたるため、いちいち分別することはコスト的にも時間的にもリスクが高いからだ。確かに綿、合繊、羽毛、羊毛、それぞれ分別しても同じリサイクル技術は出来ないし下請けの処理工場も点在しているので配送のコストも大変だ。 だがメーカーだけでなく行政もどうしていけばいいのか困っている。しかし彼らも対策を考えていかなかればこのままだとふとんだけリサイクルせずに燃やし続けるという地球温暖化をさらに助長させるというとんでもない存在になってしまうのだ。
僕はこのことに危機感を持ち、無謀だったが環境のトップに直談判したことがある。
しかし有難いことに当時の環境省の大臣だった小池大臣やその後に就任した若林大臣の両先生はふとんのリサイクル問題に興味を持ってくださり話せる機会を持てた。小池先生はふとんが粗大ゴミの1位ということすら知らなかったのだがそれぐらいいかに地味で目立たないふとんだが年間55万枚以上のふとんを燃やしているのを知って驚いていた。この量を減らせれば日本のC02の排出量はもっと減らせるのは簡単に想像できるだろう。

当社のような中小企業が騒いだどころでトップの機関が重い腰を上げてくれるとは思っていないが、僕はそれでもあきらめずにあちこちでふとんの処理問題について動きを止めずに問題提起を続けている。だがそのおかげで東京本部のある渋谷区のトップである区長もふとん処理問題に取り組みたいと昨年秋「渋谷区ふとんリサイクルアドバイザー」という新しい名称を作り区民のふとん処分方法などをアドバイスするようにと当社が委嘱を受けた。
そして昨年末にもう一人手を挙げてくださった方がいた・・・・。
東京農業大学農学部の玉井富士雄准教授である。玉井先生は作物学を主に教えていて作物環境や自然環境への研究にを行っているのだ。最初、僕は大学のホームページを見てそれらしき研究をしているA先生の研究室を調べて大学の広報部に当社が連絡したい主旨を伝え連絡先を聞いたのだがそのA先生が大変親切な方で「それなら玉井先生に聞いてごらんなさい。あなたのやりたいことと先生の研究は近いかもしれない。僕の紹介だと言っていいから」と先生の連絡先を教えてくださったのだ。そして僕はふとんの環境問題について紹介頂いた玉井先生に大人げなく子供のように興奮気味に延々と話してしまった。先生は冷静な口調で「うん、実に面白そうですね。どういう成果が出るか分かりませんしお役に立てる可能性がないかもしれませんが一度会いましょう。」と言ってくださり後日会うことになった。

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僕は約束の日に厚木の東京農大へ行った。夕方、山の頂にあるキャンパスの裏に車を止めて僕は大学の畑や田んぼをしばらく眺めて郷愁の気分になりながら「いい場所で勉強しているなあ」とここの学生をうらやましく思った。彼らの食堂や教室からは美しい緑やこの景色を眺めることが出来る贅沢な学習環境だ。僕は先生の研究室に向かおうとエレベータに乗り込んだがドアが開くと目の前に先生が迎えに来てくださったいた。僕は恐縮しながら先生の部屋へ入った。「どこかでおたふくわたって聞いた事があるなと思っていなかのおふくろに電話したら看板がそこらじゅうにあったから良く覚えていると言っていてね。うちのふとんも昔はおたふくわただったかもと言ってましたよ(笑)」この先生のリップサービスで気を良くし反省を忘れる悪癖がはじまり、またもこの日、興奮気味に先生に会社の案内やふとんの環境問題について熱く語り出してしまった。幸い先生はお茶を飲みながらうんうんと聞いてくださっていた。
・・・先生に以前から話していたこと。それは当社のHPにも書いていたが「ふとん農法」の研究である
昔は綿ふとんなど天然繊維しかないころは例えば田んぼの上に敷くことにより綿の間から苗だけが生えて雑草は綿の下で枯れ立派な米が出来たという。水田なので綿は1年経てば自然に溶けていったという。先生の話では畳なども綿に比べれば時間を要するが自然に放置しておけば土になじみ消えるといっていた。「綿も畳も天然繊維で植物なんだから土におけば戻るという理屈はおかしくない」と話された。
そのふとん農法、最近は製綿メーカーなどが農法用に綿100%の農業用シートを作り各農家に納めている。つまり使用したふとんそのものではない。
僕は先生に古い綿やふとんを研究に使ってほしいと頼んだ。側生地は取り除きまた別の方法で利用し(雑巾などとして)中綿を大学の土壌でうまく利用できないか・・・。配送は僕や社員が行い研究時も付き添わせてほしいと話した。「あなた達も来てやるのですか?」先生は僕の顔を見ていった。もちろんですと答えた。ただ使い古したふとんを送っていたら至極失礼である。それじゃ先生にただ処分をお願いするだけになってしまい意味がない。悩む先生に「先生、僕が綿にこだわるのは家業だからというだけではありません、綿は土に帰る。この言葉を実行したいんです。」と正面を見て僕は少し大きい声で話した。少し間を空けて先生は「よし!分かりました。やってみましょう。おたふくさんも来てくれるなら一緒にやりましょう。どうなるか私にも見当つかないですが面白そうだ。」
良かった!これで前進出来るぞ、僕は思わず先生と握手してしまった。
「頑張ろう・・」車に乗り込んだときのあの美しい夕焼けの景色が今でも鮮明に覚えている。ということでいよいよ東京農大とおたふくわたのふとん農法研究が始まるのだ。

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綿は土に帰る・・・(写真はイメージです)

後日、玉井先生から「今回の実験に興味を持った生徒もいます。受験シーズンを終えたら動きましょう」と連絡を頂いた。小さい一歩だが大きな成果が出ることを期待する。この研究は東京農大と当社で後に然るべき環境機関に提出出来る様な内容にしたいと考えている。
次回は「博多が動いている」について書きたいと思います。


九代目 原田浩太郎

※このコラムは2008年2月に執筆されたものです

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